2025/04/26 16:27

コーヒー豆を選ぶとき、「ハイロースト」や「フルシティロースト」といった焙煎度表記を目にすることがあります。味の目安として便利な一方で、「同じシティローストでもお店によって全然味が違う」と感じたことがある方も多いはずです。

この“焙煎度のズレ”は、見た目の色や焙煎時間、熱のかけ方、さらには測定基準の違いによって生まれます。今回は、焙煎度表記の奥にある「目に見えない差」を少しだけ掘り下げてみます。

焙煎度は8段階に分けられる

焙煎度は一般的に、以下の8段階に分けられます。豆の色の濃さや香り、味わい、そして煎り止めのタイミング(何ハゼのどこで止めたか)で区別されます。

また、豆の焙煎色を客観的に数値で表す方法として「アグトロン値(Agtron値)」があります。これはアメリカのSCAA(スペシャルティコーヒー協会)も基準として用いているもので、数字が大きいほど浅煎り、数字が小さいほど深煎りを示します。焙煎度の感覚的な表現とあわせて、豆の見た目の色を機械で測定し数値化したものです。

  • ライトロースト(Agtron値:80〜90)
    1ハゼの始まる前〜開始直後。非常に浅煎りで、酸味が強く、紅茶のような風味になることもあります。

  • シナモンロースト(Agtron値:75〜80)
    1ハゼ序盤で煎り止め。やや浅煎りで、穀物感のある風味。明るい酸味が主体。

  • ミディアムロースト(Agtron値:65〜75)
    1ハゼ中盤〜後半。酸味と甘みのバランスが取れ、アメリカンコーヒーにも使われる定番の煎り方。

  • ハイロースト(Agtron値:55〜65)
    1ハゼ終了直後に煎り止め。酸味は残しつつ、コクや香ばしさも出てくる。日本の喫茶店でもよく使われます。

  • シティロースト(Agtron値:45〜55)
    1ハゼ終了〜2ハゼ直前。甘みと苦味のバランスが良く、多くのスペシャルティコーヒーで採用される焙煎度。

  • フルシティロースト(Agtron値:35〜45)
    2ハゼの始まり〜中盤。苦味が前に出てきて、酸味は控えめ。アイスコーヒーやエスプレッソに向いています。

  • フレンチロースト(Agtron値:25〜35)
    2ハゼ中盤〜後半。表面にオイルがにじみ始め、しっかりした苦味とスモーキーさが特徴。

  • イタリアンロースト(Agtron値:15〜25)
    2ハゼ終盤、ぎりぎりまで火を入れる。豆の表面はオイリーで、深く重厚な味わい。エスプレッソ用に多用されます。

同じ焙煎度でも、味が違うのはなぜ?

「どこで煎り止めたか」だけでなく、どんなスピードや熱量でそこに到達したかによって、味は大きく変わります。

たとえば、1ハゼ終了後すぐに煎り止めたシティローストと、そこからさらにじっくり熱をかけたシティロースト。見た目の色はほぼ同じでも、前者は軽やかで酸が立ち、後者は甘みや厚みがしっかりと感じられる味になります。

つまり、同じ焙煎度でも「プロファイル(火力や時間配分)」が違えば、味もまったく変わるということです。

焙煎度を“信じすぎない”ことのすすめ

焙煎度はあくまで目安です。
見た目の色、アグトロン値、ハゼのタイミング、どれを取っても曖昧さがあり、さらに各焙煎士のスタイルによって個性が出ます。

だからこそ、表記にとらわれずに実際に飲んでみることが大切です。自分の好みに合う焙煎のニュアンスを知ることは、コーヒー選びの楽しさのひとつでもあります。

たとえば当店の豆も、「中深煎り」と書いてあっても、そこには明確な狙いがあります。
豆本来の甘さを残しながら、余韻にほんのりと苦味が感じられるように、1ハゼ終了後から2ハゼ直前まで、じっくりと熱をかけています。
気になった方は、ぜひ一度試してみてください。

焙煎度の世界は、数字と感覚のあいだを行き来する、奥深くて面白いもの。
「シティロースト=こういう味」と決めつけずに、焙煎の背景に少しだけ目を向けてみると、コーヒーの世界がまた一段広がるかもしれません。