2025/04/29 16:02

ブラックアイボリーコーヒー | 象が生む奇跡の一杯、その味わいと裏側|

世界には、単なる嗜好品の域を超えた「体験」として楽しむコーヒーが存在します。ブラックアイボリーコーヒーもその一つ。
象がコーヒーチェリーを食べ、消化過程を経て排出された豆から作られるこの特別なコーヒーは、年間生産量がわずか数百キロ。タイ北部の限られた地域だけで生産され、提供される場所もごくわずかです。

ブラックアイボリーコーヒーは単なる話題性ではなく、その味わいにおいても他にはない個性を持っています。

酵素が生む、なめらかで優しい味わい

象の消化酵素によって、コーヒーチェリー内部のタンパク質が分解されます。この工程が、ブラックアイボリー特有の味わいを生み出す鍵です。
コーヒーの苦味や渋みを引き起こす成分は、タンパク質由来のものが多く含まれています。これらが象の消化過程で自然に分解されることで、口当たりは驚くほどまろやかに、そして雑味のないクリアな印象に仕上がります。

一口含めば、トーストしたパンやカカオのような穏やかなアロマと、ほのかに甘い余韻が広がります。派手なフレーバーではありませんが、じわじわと染み入るような優しさが、ブラックアイボリー最大の魅力です。

精製の工程——偶然ではなく、緻密な管理の上に成り立つ味

象に与えるコーヒーチェリーは厳選されたものだけを使用します。象の腸内ではおよそ12〜72時間かけてチェリーが発酵・分解されますが、この時間管理も重要な要素です。
排出された豆は、すぐに手作業で回収され、丁寧に洗浄・乾燥されます。衛生面への徹底的な配慮と、味の劣化を防ぐ迅速な処理。この繊細な作業の積み重ねが、ブラックアイボリーの品質を支えています。

通常のウォッシュドプロセスやナチュラルプロセスとは異なる「動物消化発酵」という極めて特殊なプロセス。まさに自然と人の手が絶妙に絡み合う、奇跡の精製法といえるでしょう。

動物福祉への配慮と、持続可能な生産の形

こうした特異な精製方法が注目される一方で、ブラックアイボリーコーヒーカンパニーは動物福祉に強く配慮しています。
象たちは自然に近い環境で飼育され、無理にチェリーを食べさせるような強制は行われていません。収益の一部は象の保護活動や、地域社会への還元にも充てられています。

あくまで象の健康と尊厳を守りながら、ゆっくりと時間をかけて育まれるコーヒー。それがブラックアイボリーの真の価値です。

なぜブラックアイボリーは高価なのか

ブラックアイボリーコーヒーが「世界で最も高価なコーヒー」と言われる理由は、単なる希少性だけではありません。
一杯の背後には、時間、手間、リスク、倫理的配慮、すべてが重なっています。例えば、象がチェリーを完全に食べてくれるわけではなく、大量のロスが発生します。さらに、収穫から出荷までにかかるコストは通常のコーヒー豆の何倍にもなります。

同じく高級コーヒーとして知られるコピ・ルアク(ジャコウネコ由来)とは違い、ブラックアイボリーは強制給餌を行わないという点でも高く評価されています。

一杯に込められた物語を味わう

ブラックアイボリーコーヒーは、単に高級で珍しいから飲むものではありません。
象の体内でゆっくりと変化し、手間を惜しまぬ人の手によって大切に仕上げられた一杯。それは自然への敬意と、命への感謝を感じさせる味わいです。

特別な日のご褒美に、自分への贈り物に。ブラックアイボリーコーヒーは、「ただ飲む」以上の体験をきっと与えてくれるでしょう。