2025/04/30 15:25

コーヒーの味は、豆だけで決まるわけではありません。
同じ豆でも、淹れ方を変えることで「まるで違う味」に仕上げることができます。

たとえば今日は酸味を引き立たせたい、あるいはしっかりとコクのある一杯にしたい——そんなときに、焙煎度や豆を変えずに“味の設計”ができるのがハンドドリップの魅力です。

ここでは、プロの現場でも活用される「味を変えるための5つのテクニック」をご紹介します。


1. 挽き目の調整:抽出効率を操る

挽き目を変えるだけで、味の印象はガラリと変わります。

  • 細かくすると…苦味やコクが出やすくなる(抽出過多に注意)

  • 粗くすると…すっきりした味になりやすい(軽さが出る)

たとえば中煎りの豆をやや粗めに挽くと、明るく軽やかな酸味が強調されます。逆に深煎り豆を中細挽きで丁寧に抽出すれば、どっしりと甘い後味に。


2. 湯温:どの成分を優先的に抽出するか

湯温によって溶け出す成分の種類が変わります。

  • 85〜88℃:酸味や香りが主体。果実感を引き出したいときに。

  • 90〜93℃:バランス型。標準的で安定した抽出が可能。

  • 94〜96℃:ボディや苦味が強調され、濃厚な味わいに。

浅煎りを85℃で淹れると、まるで紅茶のような繊細な酸が立ち上がります。逆に深煎りを高温で抽出すると、キャラメルのような香ばしさと厚みが引き出されます。


3. 注ぎ方と抽出時間:味の構造を変える

注ぐスピードや回数、全体の抽出時間によって、味の構造が変わります。

  • 注ぐ回数を減らす(1〜2投):すっきり、クリーンな味に

  • 複数回に分ける(3〜5投):甘さや余韻、複雑さが出る

  • 抽出時間が短い(1:30〜2:00):軽く明るい印象

  • 抽出時間が長い(2:45〜3:30):濃密で重層的な味に

同じ豆でも、注ぎ方を変えるだけで「軽やかなおやつ向け」から「食後の余韻を楽しむ一杯」まで自在に変化させられます。


4. 蒸らしと撹拌:味の立ち上がりを整える

蒸らしは、抽出のベースを決める大事な工程です。

  • 短い蒸らし(15秒):炭酸ガスをある程度残し、華やかな香り重視

  • 長めの蒸らし(40秒〜):ガスを抜いて、味を落ち着かせる

さらに、**軽く撹拌(ステア)**することで粉全体が均一になり、過抽出や偏りを防ぎます。結果として、香味のバランスが整ったカップに仕上がります。


5. 抽出比率:味の重さをデザインする

豆とお湯の比率も、味を大きく左右します。

  • 1:13〜1:14(濃いめ)…重厚でコクのある味に

  • 1:15〜1:16(標準)…バランス型。豆の個性がよく出る

  • 1:17以上(薄め)…軽やかで、酸が明るく出る

たとえば、浅煎り豆を1:17で淹れると、白ワインのような透明感。深煎りを1:14にすると、ダークチョコのような濃厚さが際立ちます。


6. 味を“設計”する4:6メソッド

甘さと味の強さを分けて調節したいときには、「4:6メソッド」という考え方が役立ちます。
これは、抽出全体の湯量を最初の40%と、残りの60%に分けて考える方法です。

  • 最初の40%(例:240g中の96g)で甘さの質感を作り

  • 後の60%(残り144g)で味の強さや口当たりを調整します。

最初を1回で注ぐと軽くスッキリ、2~3回に分ければ甘みや厚みが出やすくなります。後半を早く注げば軽く、ゆっくり注げばボディが増す。そんなふうに、「狙って味を作る」視点をもたらしてくれるのが、このメソッドの面白さです。


まとめ:素材は同じでも、味は変えられる

コーヒーの味は、焙煎や産地だけで決まるものではありません。
同じ豆でも、抽出という“演出”によって、全く違う表情を見せてくれます。

「今日は軽めに、明日はコクを強めに」
そんなふうに一杯のコーヒーに自分の意思を反映できることが、ハンドドリップの奥深さであり、面白さです。