2025/05/01 15:30

コーヒー豆のオイルについて考える

コーヒー豆の表面に現れる、あの独特なツヤ。
特に深煎りの豆になると、オイルが浮かび上がってテカテカして見えることがあります。

「これって脂っこい?」「酸化してる?」「鮮度が悪いのかな?」
そんな疑問をもったことがある人もいるかもしれません。

実はこの“オイル”には、コーヒーの香りや味を支える大きな役割があります。
今回は、焙煎の現場で日々豆と向き合う立場から、このコーヒーオイルについて詳しく掘り下げてみます。


豆の中には、最初から油分が含まれている

コーヒー豆には、焙煎前の段階ですでに10〜17%程度の脂質が含まれています。
これはコーヒーの品種や生育環境、精製方法によっても微妙に変わりますが、いわば豆の“体質”の一部です。

この脂質は豆の中心部、つまり細胞の中に蓄えられていて、焙煎によって徐々に溶け出し、細胞構造が壊れることで表面ににじみ出てくるのです。


ごま油とはちょっと違う「オイルの正体」

植物性の油という点では、コーヒーのオイルもごま油や大豆油などと似ています。
実際に脂肪酸の組成を見れば、オレイン酸やリノール酸など、共通する成分も多く含まれています。

ただし決定的に違うのは、**「香りを楽しむためのオイル」**であるということ。

ごま油が“加熱”や“搾油”によって旨みと香ばしさを引き出す調理の油であるのに対し、
コーヒーオイルは焙煎の熱によって内部から自然ににじみ出る香味成分の一部

それを搾って使うようなものではなく、あくまで豆の個性として現れる繊細な風味の表現です。


深煎りになると、オイルが現れやすくなる理由

焙煎が進むにつれて豆内部の水分が抜け、繊維構造がもろくなっていきます。
特にフルシティロースト(中深煎り)以上になると、内部にあったオイルが表面に現れ始めます。
シティロースト(中煎り)以下では、見えないことがほとんどです。

このオイルは、香りの複雑さやコクの深さを支える要素でもあります。
同じ豆でも浅煎りではスッキリした味わい、深煎りではどっしりしたボディ感になるのは、この脂質が大きく関係しているのです。


オイルは、抽出方法でも味に差を生む

たとえばペーパードリップ
紙フィルターは油分を通さないため、オイルの多い深煎り豆を使っても、仕上がりは意外とスッキリしています。

一方、金属フィルターやフレンチプレス、エスプレッソでは、
オイルがしっかりカップに残るため、重厚でまろやかな味わいに仕上がります。

つまり、オイルの量だけでなく、抽出器具によって“感じ方”が変わるというのも、コーヒーの奥深いところです。


保存時の注意点:テカリ=劣化、ではないけれど…

表面にオイルが出ている豆は、光や空気に触れる面積が広くなるため酸化しやすいのは事実です。
だからといって「油が出てる=劣化」と単純に決めつけるのは早計。

重要なのは、焙煎からの時間と保存状態です。
特に深煎り豆は、焙煎日から1〜2週間以内に飲み切るのがベスト
保存の際は、密閉容器に入れて冷暗所へ。豆のままで保管するのが理想です。

ちなみに、豆を冷凍するという手もありますが、
オイルが凝固して香りが立ちにくくなることもあるため、深煎り豆では注意が必要です。


焙煎豆のツヤを、ネガティブに捉えすぎないで

「オイルが出てる=古い」「テカテカしてる=脂っこい」といったイメージを持たれがちですが、
コーヒーのオイルは鮮度の敵ではなく、風味の味方でもあります。

適切な焙煎、丁寧な保存、そして抽出方法を選べば、
このオイルはむしろコクや厚み、香りの広がりを引き出す魅力的な要素になります。

豆を手に取るとき、
「このテカリはどんな味を生んでくれるんだろう?」と想像するだけでも、ちょっと楽しくなるはずです。