2025/05/03 15:30

コーヒー豆が私たちの手元に届くまでには、実にさまざまな工程を経ています。

農園で収穫され、精製され、乾燥され、袋に詰められ、そして何千キロもの海を越えてやってきます。

この「輸送」というプロセス。
実は、コーヒーの味を左右するほど重要な要素だということをご存知でしょうか?

今回は、コーヒー豆がたどる“見えない旅”と、それが風味に与える影響についてお話ししてみたいと思います。


輸送袋の違いで変わる、豆のコンディション

コーヒー豆の多くは、「ジュート袋(麻袋)」に詰められて輸送されます。
ジュート袋は通気性が良く、昔から広く使われてきたスタンダードな梱包方法です。

ただ、その通気性ゆえに湿気も通してしまうのが難点。
長い船旅の間に豆が湿気を含んでしまい、香りが損なわれたり、カビ臭が出るリスクがあります。

そこで登場するのが「グレインプロ」。
これは麻袋の内側に入れる密閉性の高い袋で、湿気や酸素を遮断し、豆の鮮度を保つ役割があります。

実際、グレインプロ入りで届いた豆は、カッピングしても香りがフレッシュなことが多く、焙煎してからの印象も明確に違います。


船の中は、豆にとって過酷な環境

コーヒー豆はコンテナに積まれ、数週間かけて海を渡ります。

このコンテナの中、実はかなり過酷です。
昼夜の寒暖差で結露が発生しやすく、場所によっては内部温度が60℃近くに達することもあります。

とくに赤道付近を通る航路では、熱気と湿気が豆にダメージを与える大きな要因になります。

グレインプロに守られていない豆は、この段階で風味が抜けたり、酸味が鈍くなったりすることも。

冷蔵輸送(リーファーコンテナ)という選択肢もありますが、コスト面からすべてのロットで使うのは現実的ではありません。


「積む前」と「積んだ後」にも落とし穴が

実は、コンテナに積まれる前や積んだ後の段階でも、豆にとってはリスクがあります。

現地の倉庫や港での保管中に高温多湿な環境が続くと、豆が湿気を含みやすくなります。
乾燥が甘いロットでは、この時点で発酵が進んでしまうことも。

また、コンテナに積まれてからすぐに出港するとは限りません。
通関手続きの遅れなどで、数日〜数週間、屋外で待機することもあります。

その間、コンテナ内はサウナのような高温になり、じわじわと豆が傷んでしまうことがあるのです。


香りが“うつる”こともある

輸送中のコーヒー豆は、香りの強いものと一緒に運ばれると「におい移り」してしまうことがあります。

香料、ゴム製品、化学品などが同じ船便にあると、麻袋を通して香りが染みついてしまうことも。

開封した瞬間に「これはおかしい」と感じるような匂いがある豆は、焙煎してもその異臭が残ってしまう場合があります。

こういったトラブルを避けるには、信頼できる輸入業者との連携や、ロットのトレースが非常に重要です。


豆に刻まれた“旅の痕跡”

輸送のダメージは、実は見た目や味にもしっかり現れます。

  • 表面のべたつきや変色

  • 豆の割れや膨らみのばらつき

  • カッピングで感じる“紙っぽさ”や“抜けた酸味”

これらは、収穫や精製ではなく「輸送や保管の過程」で起きていることも少なくありません。

焙煎前の段階で、豆の状態をよく観察することが、とても大切になります。


コーヒーの味は、旅の記憶でできている

どんなに丁寧に育てられ、精製されたコーヒーでも、輸送でそのポテンシャルを落としてしまうことがあります。

だからこそ、私たちは「どんなふうに届いたか」までを見ながら豆を選び、焙煎しています。

麻袋か、グレインプロ入りか。
どこで保管され、どんな船で運ばれてきたのか。
それはすべて、最終的な味につながっていく大事な要素です。


コーヒーの香りは、800種類以上とも言われています。
その繊細な個性を守るためには、カップに届くまでのすべてのプロセスに目を向けることが欠かせません。

ぜひ一杯のコーヒーを飲むとき、豆がたどってきた“旅”にも思いをはせてみてください。