2025/05/15 15:24
一杯の中に潜む「色」の正体
淹れたてのブラックコーヒー。
その深く沈んだ黒色に、「濃い」「苦い」「強い」といった印象を抱く人は多いかもしれません。
でも、よく考えてみると――
なぜコーヒーは黒いのでしょうか?
今回は、コーヒー豆ではなく
抽出後の液体が黒く見える理由についてご紹介します。
意外と知られていない、色にまつわるお話です。
メラノイジンって何?
コーヒーの黒さの正体は、
「メラノイジン」という成分です。
これは焙煎中に起こる「メイラード反応」によって生まれる、
褐色の高分子化合物。
パンの焦げ目や焼き菓子の焼き色にも同じ反応が関わっています。
このメラノイジンの一部は水に溶けるため、
コーヒーを淹れると液体にしっかりと溶け出します。
その結果、私たちの目には「黒い飲み物」として映るのです。
ちなみに「メラノイジン」という名前は、
肌や髪の色素「メラニン」と同じく、
ギリシャ語で「黒」を意味する言葉に由来します。
実は“真っ黒”じゃない?
「ブラックコーヒー」とは言っても、
実は本当の意味で「真っ黒」なわけではありません。
透明なガラスカップに注いで光にかざしてみると、
赤みがかった褐色や、深い琥珀色が見えるはずです。
これはメラノイジンが、青や緑の光を吸収し、
赤系の光を通す性質を持っているからです。
私たちが「黒」と感じるのは、
光を通さないマグカップや照明の影響。
実際には、光に反応して美しい濃い茶色〜赤褐色をしているのです。
抽出の仕方で黒さが変わる
コーヒーの色は、焙煎度だけでなく抽出方法でも大きく変わります。
たとえば……
● 高温&長時間の抽出:
メラノイジンがたくさん出て、より黒っぽくなります。
● 低温抽出(コールドブリューなど):
赤みのあるやわらかい色合いになりやすいです。
● 挽き目や粉量:
細かく挽いた粉や粉量が多いと、色素の抽出量が増えます。
● フィルターの違い:
ペーパーフィルターは澄んだ色に。
金属やネルは微粒子も通すため、より黒く見えることも。
見た目から味わいの印象まで、色がもたらす効果は大きいんです。
見た目で味を判断していませんか?
「黒=苦い」という印象を持っている方も多いかもしれません。
でも実際には、浅煎りでも抽出方法によっては黒く見えることもあり、
逆に深煎りでも透明感あるコーヒー液になることもあります。
つまり、「見た目=味」ではないということ。
視覚が味覚に与える影響は大きいので、
そのギャップに気づくことで、
コーヒーの繊細な味わいにもっと気づけるようになります。
時間が経つと色も味も変わる
淹れたてのコーヒーは、艶やかで透明感のある色合い。
でも、しばらく経つと少しくすんで見えてきます。
これは液中の成分が酸化し、
微粒子が浮いたり沈んだりすることで色調が変化しているからです。
もちろん、味も変わります。
酸化が進むと、苦味や渋味が前に出て、
香りも弱まっていきます。
つまり、見た目の変化は飲み頃のサインでもあるんです。
コーヒーの「黒」は奥深い
「ブラックコーヒー=黒」というイメージは間違いではありません。
でも、その黒の正体を知ってみると、
実はたくさんの要素が関わっていることに気づきます。
焙煎、抽出、光の性質、私たちの視覚と味覚の関係――
ひと口に「黒」と言っても、
そこには豊かなグラデーションと物語が詰まっています。
次にブラックコーヒーを飲むときは、
ぜひ光にかざしてその色の奥を覗いてみてください。
赤み、深み、透明感。
ただの「黒」ではないことに気づくはずです。
きっとその一杯が、ちょっと特別に感じられると思います。