2025/05/21 15:26

コーヒー豆の品質を測るうえで、「水分値」と「活性水分値(Water Activity:Aw)」という指標は非常に重要です。どちらも水に関係する数値でありながら、意味合いも目的も異なります。このふたつを正しく理解することは、焙煎や保管、ひいては香味の安定性を高めることにもつながります。

今回はこの「水分値」と「活性水分値」について、それぞれの違いや現場での活用法を紹介しながら、コーヒー豆の内側で起こっていることをひも解いていきます。


「水分値」とは:豆の中にどれだけ水があるか

水分値(Moisture Content)は、コーヒー豆に含まれる水分の“総量”を示す値です。通常は乾燥重量に対して何%の水分を含んでいるかで表示されます。たとえば「水分値11%」とあれば、100gの豆に11gの水分が含まれているという意味です。

コーヒーの理想的な水分値は?

SCA(スペシャルティコーヒー協会)の基準では、水分値は8〜12%の範囲が望ましいとされています。この範囲内であればカビなどのリスクも低く、焙煎の安定性も確保されます。逆にこれを超えると、輸送中や保管中にカビ臭や発酵臭が出る可能性が高まります。

例えるなら、水分値は「背負っている水の重さ」のようなものです。ランナーが背中に水入りのリュックを背負って走っていると想像してみてください。重すぎれば動きが鈍く、軽すぎれば脱水になる。焙煎も同じで、水分が多いと熱の入りが遅れ、少なすぎると焼きが急激に入りやすくなります。


活性水分値とは:その水が「どれだけ動けるか」

一方で、活性水分値(Water Activity、Aw)は、豆の中にある水分の“自由度”を示す指標です。つまり、含まれている水のうち、微生物の繁殖や化学反応に使える水の割合を測定しています。これは0〜1.00で表され、数値が高いほど水分が自由に動きやすい状態にあります。

活性水分値の基準は?

コーヒー豆における理想的な活性水分値は0.50〜0.60以下です。これを超えると、微生物(特にカビ)が繁殖しやすくなり、品質の劣化が進みます。

ここで例え話をひとつ。豆の中に水があるとしても、それが「凍っている水」なら動けませんし、「封じ込められている水」も動きません。でも、常温で自由に流れ出せる水なら、カビも酵母も大喜びで動き始めます。活性水分値は、その水がどれだけ“自由に活動できるか”を示すわけです。

同じ水分値11%でも、Awが0.45の豆と0.70の豆では、保存安定性はまるで違います。これは「量」ではなく「動けるかどうか」が問題なのです。


なぜこの2つを区別する必要があるのか?

豆に含まれる水分の総量(水分値)と、それがどれだけ活発に動けるか(Aw)は、似て非なるものです。

たとえば、乾燥工程をやや急いで終えた場合、表面はカラッとしていて水分値も8〜9%と適正に見えますが、内部に水分が偏って残っていてAwが高くなることがあります。こうした豆は、カッピング時に“もわっ”とした印象を与えることがあり、長期保管にも向きません。

逆に、ゆっくり丁寧に乾燥させると、全体の水分値は11%とやや高めでも、Awが0.45〜0.50と低く抑えられており、保存安定性に優れるケースもあります。

つまり、水分値だけを見て「乾いている」と判断してしまうと危険であり、活性水分値とのセットで評価する必要があるのです。


測定と現場運用の実際

水分値の測定

現場では一般的に、赤外線式やキャパシタンス式の水分計が使われます。手軽に数秒で測定できるため、買付や焙煎前のチェックに便利です。ただし機器によって誤差が大きいため、測定環境の統一が求められます。

活性水分値の測定

Awの測定には専用の水分活性計(Awメーター)が必要です。コストが高く、常に持ち運ぶものではないため、マイクロロットやハイグレードの豆に限定して測定するケースが多いです。

実際の焙煎現場では、以下のような使い分けがされています:

  • 買い付け判断時にAwを測定:保管リスクや到着時の変化を予測

  • 焙煎前の水分値チェック:焙煎プロファイルの調整に使用

  • ロット間のばらつき確認:品質の安定性の指標として


水分と焙煎の関係──プロファイルの変化

焙煎の世界では、水分値が1%違うだけでファーストクラックのタイミングや膨らみ具合が変わります。特に水分が高い豆は、内部が加熱されるまでに時間がかかるため、初動が遅く、その分だけ焼き込みすぎてしまうリスクもあります。

また、Awが高いと内部での水分移動が激しくなり、豆の表面にシルバースキンが浮きやすい、焼きムラが起きやすいなどの問題が生じることも。こうした観点からも、焙煎前の水分管理は非常に重要なのです。


まとめ:数字の「裏側」を読み取る

コーヒーの水分に関する数値は、単なる「乾いているかどうか」を示すだけでなく、味、香り、保存性すべてに関わる根本的な要素です。

  • 水分値=豆の総水分量(%)

  • 活性水分値=自由に動ける水分の割合(0〜1)

これらはあくまで“数字”ですが、その裏には豆の内部構造や乾燥技術、生産者の意図や工程の精度が反映されています。

もしあなたがコーヒーをより深く理解したいと考えているなら、水分値とAwを単なるスペックとしてではなく、「豆のコンディションを映す鏡」として捉えてみてください。その先には、もっと豊かな香味体験が待っています。