2025/05/29 15:47
ハンドドリップは、湯を注ぐだけのシンプルな抽出方法に見えて、実は非常に多様な技術が詰まっています。最近では世界大会(WBrC)でも、従来の注湯設計だけでなく「ステア」や「スピン」、さらには抽出後の香りを保持するための冷却技法まで、多彩なテクニックが用いられています。
この記事では、ハンドドリップにおける注目すべき技法を紹介し、それぞれが味にどのような影響を与えるのか、大会での使われ方などを交えて解説します。いつもの一杯に新しい視点を与えるヒントになれば幸いです。
ステア(Stir)
概要:粉層をスプーンや棒などで攪拌する技法。
目的:抽出の偏りを防ぎ、粉全体を均一に湯と接触させる。
味への影響:
ボディの強調または抑制
酸味の明るさの調整
クリーンカップの向上
大会使用例:Carlos Medina(WBrC 2022優勝)が採用。ごく控えめな攪拌によって味の精度を高めた。
スピン(Spin)
概要:ドリッパーまたはサーバーを軽く回転させることで、抽出液の分布や粉層の均一性を高める技法。
味への影響:
チャネル化の防止
濃度の均一化
透明感のある味わい
大会使用例:Aprilブリュワーではスピンが基本設計に組み込まれている。再現性の高い抽出に寄与。
パラゴン(Paragon)
概要:抽出液をステンレスや石製の冷却球に当てて、揮発性アロマを液体中に閉じ込める技法。
味への影響:
トップノートの保持
フレーバーの立ち上がり強化
香りの持続性の向上
大会使用例:2022年以降、WBrCファイナリストが採用。前半液のみを冷却する設計が主流。
スプラッシュ技法(Splash Pouring)
概要:湯を粉の中心に落とし、外側へ跳ねさせるように注ぐ技法。
味への影響:
味に立体感が出る
酸の個性が引き立つ
大会使用例:UK代表フィル・スミスが採用。華やかなエチオピア系の豆に効果的。
ディストリビューション(Distribution)
概要:粉をセットしたあと、微粉や粗粉の偏りを整える工程。
味への影響:
抽出の安定化
抽出ムラの回避
大会使用例:振動プレートや専用ツールを用いた粉層の調整が、トップ選手たちに一般的。
パルス注湯(Pulse Pouring)
概要:湯を連続ではなく、小分けに分けて注ぐ技法。
味への影響:
濃度感の調整
粉層の攪乱を抑えた抽出
使用傾向:April流など、再現性を重視するスタイルで多く採用される。
湯温ドリブン抽出(Variable Temperature Pouring)
概要:抽出中に湯温を段階的に変えることで、味の変化を設計する手法。
味への影響:
高温で香りを、低温で甘さを引き出す
フレーバーの分離が明瞭になる
大会使用例:2019年のWBrCファイナリストが活用。複雑な味を作るための重要技術。
フィルターウェット(Filter Wetting)
概要:紙フィルターとドリッパー全体を事前に湯で濡らしておく。
味への影響:
湯温の安定化
ペーパー臭の除去
使用傾向:特に繊細な豆や浅煎りにおいて、香りとクリーンさを保つために有効。
【まとめ】
これらの技法は、ハンドドリップの味づくりにおいて極めて重要な要素です。豆の個性を最大限に引き出すためには、「ただ注ぐ」だけでなく、粉層の状態や香りの流出、抽出温度や速度といった複数の要因をコントロールする必要があります。
ぜひ今回紹介した技法を、自宅の抽出にも取り入れてみてください。新しい味わいに出会えるきっかけになるかもしれません。